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⑱契約終了
蝦夷富士と呼ばれる『羊蹄山』。雪解けが進んでも、まだ真っ白な雪を冠雪している姿は富士山そっくり。その山が車窓に流れる道を、夫の車が走行する。
今日の夫はラフではなくカジュアル寄りのビジネススタイルで、水色のギンガムチェックのシャツにグレーのスラックス、でもジャケットはソフトなニットジャケットで、レストランで食事をすることも意識したきちんとしたお洒落していた。
杏里もパンツスタイルだが、上質な素材できちんと系でコーディネートをしてみた。
雪がまだところどころ残っている峠道だったが、蕗の薹がだいぶ伸びた姿になっている。もう少しすると大きな蕗の葉になりそうだった。
窓辺に羊蹄山が雄大に見えるレストランに到着。
喜茂別地方、ニセコ地方、羊蹄山の麓で獲れる野菜を中心としたコース料理がメインだという新鋭のレストラン。
ログハウス造りのその店の中も落ち着いていて、自然の木々に囲まている景色が見えるテーブルに案内された。
なんとなく。杏里は落ち着かない。
結婚記念日当日ではないが、結婚記念日だからと近い休日にふたりきりででかけるだなんて。初めてだからだ。
しかも、いつもとちょっと違う大人の男のお洒落を選んでこの日を迎えてくれた夫のその姿勢も初めてで、まるで初デートのようで妙な緊張感がある。
それでも樹が杏里の目の前で微笑んでくれる。
「俺は運転があるから飲めないけれど、杏里はワインにシャンパンを選んでいいからな」
「ありがとう。そうさせてもらいます」
夫の言葉に甘えさせてもらうことも増えた。
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