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そして料理が運ばれてくる前にと、彼が脇に持っていた鞄からリボンがかかった箱を取り出し、テーブルに差し出してくれる。
「今年も一年間、大澤のために貢献してくれてありがとう。子供達の母親としてもお疲れ様でした」
これは結婚記念日に夫がいつも言ってくれる言葉で、プレゼントも毎年のことだった。
だいたいが時計やブレスレット、仕事でつけられそうなネックレスにピアスと貴金属が多い。
対して杏里も準備していたものをテーブルに置いて差し出す。
「樹さんも。大澤を守るための社長としてのお務め、今年もお疲れ様でした。そして私たちの家を守ってくださって感謝しております」
杏里の場合はネクタイ、時計、靴などのメンズ用品が多い。
今年はカフスボタンを選んだ。
いつもは彼の書斎を訪ねて簡単に手渡していた。気持ちはあるのに事務的なかんじだった。でも彼も贈ったものは愛用する姿はきちんと見せてくれていた。杏里も仕事にでかけるときに愛用していた。
でも、こうして改まるようなテーブルを挟んでギフトの交換をするのは妙な気分になった。
しかも夫と妻が愛情を贈り合う気持ちよりかは、パートナーとして信頼をしてきた感謝が優先されていたと思う。去年まで。
今年もおなじなのに、春の木漏れ日がおりてくるテーブルには、よそよそしさが漂っていた。
それでも、ふたりはそれぞれの贈り物を受け取って、中身をその場で開けてみる。
杏里には『指輪』だった。
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