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テーブルの上で握ってくれている彼の手が、杏里の手の上で汗ばんでいるのがわかる。
若い時から威風堂々、余裕ある美麗な若社長だった彼。その時に契約をかわすように受けたプロポーズとは違う。
普段着の男が決死の覚悟で、汗を滲ませて、杏里という女に挑んでくれているのだ。
だから。杏里もその手の上に、自分の手を重ねた。
「指輪、つけてくれますよね」
一粒だけ。大きな涙の粒が杏里の目の端から落ちていく。
樹の緊張で強ばった表情に、笑みが広がった。
「もちろん。……ありがとう。いままで以上に、大事にする」
「花南さんに怒られますもんね」
「だから、なんでここで言うんだよ。もう……」
杏里の照れ隠しだったのに、樹も一気に肩の力が抜けたようで笑い出していた。
ちょっと恥ずかしいけれど、デセールを食べ終わる前のテーブルで、彼が杏里の指にリングを通してくれる。
プラチナのリングに、ダイヤがいくつか埋め込まれているシンプルなものだった。でもこれなら仕事中でもつけていられそう。このまま愛用できそうで、杏里の心にも喜びが広がっていく。
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