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その次に届いたのは、花南が女の子を出産したというハガキ。赤ちゃんをだっこして、夫の耀平と背が高くなった甥っ子が寄り添う家族写真だった。
それを知って、大澤夫妻はいてもたってもいられなくなったのだ。
遠い山陰にふたりそろって会いに行こうと、夫の樹と決意をした。
倉重観光グループはいまも引き続き『大澤ガラス工房』のお得意様で、ホテルと旅館で使うための製品を注文してくれている。担当者は、この義兄様、倉重副社長。遠藤親方を窓口に、たまに彼本人が、小樽の工房まで仕入れにやってくる。その時に杏里は一度『花南の作品を当店で扱いたい』という申し入れをしたいため、遠藤親方を通じて対面したことがある。なので『ご無沙汰しています』と挨拶を交わした。樹は『正式には』初めての対面になるので、お互いに名刺交換をするというビジネスマン同士の挨拶を交わす。
「その節は、当時は義妹だった花南が大変お世話になりました」
「いいえ。こちらこそ、芯がしっかりしている花南さんがいてくださったおかげで、妻とここまで歩んでこられたようなものですから。私たち夫妻にとって、大事な……友人と呼んでもいいのかわからないのですが、忘れられない女の子でした」
夫ふたりが挨拶を交わすそばで、花南が懐かしい生意気な顔で、樹をにやにやと見ていた。樹も気がついた。
「なにかな、花南ちゃん」
「いえいえ。友人と言っていただけて嬉しいなと思いまして。でも、友人と言ってくださるキッカケってあれですよね。反省集とか――」
「大事に持っているからな。何年も戒めていますよ。花南さんのおかげで! 相変わらずだなあ。これじゃあ、旦那さんも大変でしょうっ」
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