5114人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ残雪がちらちらと見える公園内、ゆったり広めの歩道をよっ君と笑いながら走ったりしていた。そのうちに本気を出したよっ君がぎゅんっと寿々花を引っ張りリードがピンと張るほどに駆け出す。
「あはは、よっ君。負けず嫌いだな。お姉ちゃんだって負けない……、ぞ?」
負けないぞ――と言いかけたその時、リードの端で『ぷつん』とした感覚。よっ君がひっぱって重みがあったリードの先がふいっと軽くなった。しかもリードの先の金具がぽつんと地面に落ちた。
はっとした時の目の前には、ぐんぐんと離れていくヨークシャーテリアのお尻。しっぽとお尻が遠ざかっていく!
「え、え、よっ君……? え、リード……」
リードの金具が壊れていた。母が長く愛用して古びていたのはわかっていたが、まさかの小型犬の力でぶっちぎられるとは!?
「よ、よっ君! 待って!!」
リードを急いで拾い上げ、寿々花は全力疾走しているよっ君を追いかける。
先ほどまで『お姉ちゃんと競争だよ~』なんて遊びをしていたせいか、よっ君は『わー、お姉ちゃんが追いかけてきた! ボク負けない!!』とドンドンと小さな身体でも、猛スピードで駆けていく。
うそー、うそー!! 見失ったらどうしよう!! どうしよう!!
だが寿々花も足には自信がある。ある、あるのに追いつかない! よっ君待って待って待ってーーー!!!
冷や汗がどっと背中に滲み出てきたその時、走っている寿々花をさらに追い越していく人影が真横をよぎっていった。
上下黒色のランニングウェアスタイルの男性が、寿々花を軽やかに追い抜いた。さらに小さくなっていくヨークシャーテリアへと、瞬く間に走り抜けていく。
最初のコメントを投稿しよう!