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もう夫妻で大興奮しながらの食事になった。
「一度、親方も連れてきたいものだな」
「そうね。工房から絶対に離れないお人だから。どうにかして、あの瑠璃空の現物と、このマグノリアは見てもらいたいわね」
花南の受賞を知った日も、遠藤親方は『そうですか』と笑みをみせただけで、いつもどおりの彼だった。
でも杏里は知っている。その時、杏里はそばにいなかったが、事務員の年配女性が『親方ね。ちょっぴり泣いていたの。誰もいないときに。あれ絶対に愛弟子カナちゃんの受賞を喜んでいたと思うのよね。しらんぷりしたけど』と教えてくれたのだ。
ガラス職人のお父さんは、たとえ弟子を褒め称えたくても『いつもどおりのお父さん』であろうとしたのかもしれない。
だからこそ、いつか、親方にもこのホテルに来て欲しいと思う。花南に会ってほしいと思う。
そして杏里は最近『両親』のこともよく思い越すようになった。子育てをしていると、たまにどうしても『私の親はどう思っていたのか』と自分の気持ちと重なることは否めない。
父も母も歪だけれど、それも愛情だったのか。いや、やはり己の体裁が勝っていた。いや……。そう思う繰り返しだ。
それでも父は『一花』が生まれてから、急に好々爺に変貌した気がしている。大澤の父は一清が誕生してしばらくして他界していたので、子供たちには、杏里の父はたった一人のお祖父ちゃん。盆や正月の節目には会わせてはいたが……。一花が生まれてからは、特に母が女の子かわいさに小樽に積極的に父を連れて会いに来るようになったのだ。杏里は忙しいからを理由にして避けていたが、義母の江津子がおなじ祖父母としてうまく相手をしてくれたり、優吾が対応してくれたりしていた。
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