㉑菜の花の、坂の上

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 でも逃げてばかりでも……。その形が『たまにはふたりで、旅行でも行ったら』と、母の日父の日に杏里から旅行や食事をプレゼントするぐらいにまでは気持ちは軟化していた。  だから。ここも、両親には見てほしい――。そんな気持ちが自然と浮かんできていた。  義母も『できる分だけで良いじゃないの。上出来よ、杏里さん』と言ってくれるから、それでいいんだと素直になれない心を慰めている。  楽しいフレンチ料理の時間も堪能し、夜も心地の良いさざ波を耳にしながら、夫とブランデーと挟んでいつまでも、心穏やかな夜を過ごせた。  ホテル周辺の観光を楽しんで二泊。花南と耀平と一緒にランチをしたり、ご実家のご両親とも対面してご挨拶をしたり、花南の小さな娘ちゃんとも会わせてくれた。甥っ子の航君は、もう大学生になり関西で独り暮らしをしているとかで、この日は会えなかった。  まるで親戚に会いにきたかのような、あっという間の楽しい結婚記念旅行となった。  出発する日の朝。ご挨拶にと、大澤夫妻は耀平がいる副社長室へとご挨拶へ出向いた。 「素晴らしいおもてなし、ありがとうございました」  夫の樹とともに、杏里も揃って御礼のお辞儀をした。  立派なデスクに座っていた耀平は今日も黒いスーツ姿で、笑顔で迎え入れてくれる。大澤夫妻がお別れの挨拶に来るからと、彼のそばには花南も控えてくれていた。 「そう仰っていただけて、安心いたしました。今度はご家族でいらしてください。お子様たちが遊べるような準備をしておきますので」 「社長、杏里さん。また絶対に来てくださいね。いつでも待っていますから」
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