㉑菜の花の、坂の上

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 菜の花がいっぱい咲いている丘、そのてっぺんに、小樽の坂の上にあった白と青を基調にしたあのカフェがそのままそっくりの姿であった。  むせかえるほどに甘い、菜の花の春の匂いに包まれて、丘の上で手を振っているその人がいる。杏里を見つけて、彼女が坂の道を急ぎ足で降りてくる。 「杏里ちゃん!! 樹!」 「美紗さん――」 「美紗……」  まったく変わっていない。黒髪の美しい彼女が走ってくる。  駆け下りてきた美紗が、いちばんに抱きついたのは杏里だった。  杏里もその女性をちからいっぱい抱きかえした。  私は、あなたのことも愛している。  黄色の花々の中で、彼女の優しい匂いを杏里は吸い込む。  夫がそこで優しく微笑み、女ふたりをそっと抱きしめてくれる。  シェフも手を振って呼んでいる。坂の上へ懐かしい三人でのぼっていく。  島の青い海から、春の風。  瀬戸内にも蜃気楼はみられるのだろうか。しあわせの黄色い花に囲まれて、杏里はふと思った。 今日まで恋、明日から愛 第3話 恋すれば孤独(契約夫妻+愛人 完結) ※次ページ 『恋すれば孤独 あとがき』へ ⇒ (次回予告もそちらの末尾にて)
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