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わっぱ弁当の蓋を開け、柚希は父と一緒に作った生姜焼きを箸でつまみながら聞いてみた。
「だって。次の食事は母も一緒でいいですかって言われて」
「え。お母様に紹介してもらえるなら、もう公認にしたいってことじゃないの。結婚前提にしたいから親に会わせるっていう意味の」
「三回目で? 三回目の食事で母も一緒に? まあ食事ぐらいなら『紹介してくれるのかな』と思って受け入れてもいいよ。そのあとのドライブも『食事が終わったら、母も一緒にドライブを』って言いだしたの!」
あ、それはちょっと……と、柚希も苦笑いをこぼした。
「断ったの?」
「やんわりとね。その日は都合が悪くなったとか、次回はふたりでまた会いましょうと回避しようとしたんだけど、また『母も連れて行きます』って言うんだよ。もう限界――」
「なにか、わけがあるんじゃないの?」
「だとしたら、それがずっとつきまとうってことじゃん」
「もしかして小柳店長、母一人子一人家庭?」
萌子が『そうだよ』と素っ気なく答えた。
柚希はそこで反応ができなくなる……。
自分は父子家庭だからだ。違うのは、独立したが柚希には姉がいること。
だから、片親の子供の気持ちがうっすらと透けて見えてしまった。
でも。結婚に条件を掲げる女の子には『母一人子一人』は重くて通用しないのだろうと思って、柚希は口をつぐんだ。
「訳があったんじゃないの。一度、きちんと話あってみたら」
「ううん。もういい。フェードアウトする。次に行くよ」
「次?」
出世確実のエリート候補を諦め、次に狙う結婚相手候補がここに他にいる?
柚希は疑問に思い首を傾げたが、萌子はとんでもないことを言いだした。
「伊万里さんに行こうと思う」
「え!??」
思わず張った声が出た。
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