①出世確実店長さん

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 周囲でランチをしている他従業員の視線が一瞬だけこちらに向いたので、柚希は肩をすぼめて身を潜める。  我に返ったところで、柚希は萌子に問い詰める。 「伊万里さんって、社長の息子さんじゃない。千歳お嬢様の弟。あの企画室の主任の」 「そうだよ。本社本店勤務のうちに落とすんだ。だって、ここ社食にもよく出没するじゃん。チャンスはあるよね」 「あるけど! 会長のお孫さんだよ。社長の息子さんだよ。跡取りお嬢様の弟さんだよ」 「だからじゃない。荻野家の嫁になるチャンスじゃない。千歳さん、いっつも良い物着ているし、持っているし、良いお家柄だよね。それからさ、わけわからないんだけど、普通、長男が継ぐもんじゃないの」 「だから、荻野は昔から……」 「長子相続でしょ。なんでよ。あの浦和水産の次男と結婚するんだから、べつにわざわざ苦労して跡取りにならなくてもいいじゃん。千歳さんが出て行ってくれたら、伊万里さんが跡継ぎだよね。そうなるチャンスあるよね」  そこまで狙っているのかと、同期の貪欲さを初めて知って柚希は絶句。 「だからさ。もう小柳店長ごときマザコンな小物はどーでもいいの。資産家とセレブ婚を狙うわ」 「あ、そうなんだ……。うん、わかった」  直感が働く。これ、これからトラブルになるかも? ちょっと距離を置いたほうがいい案件かも?  こんな子じゃなかったと言いたい。本店に来ちゃったから?  小柳店長はまだ一般家庭出身と言えるが、伊万里主任は代々続く荻野家の子息だ。高望みと言ったら気分を害するだろうから口が裂けても言えない。
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