②伊万里君、逃げて!

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 こんな販売員になりたいよ。もし小柳店長に憧れているなら、上等の接客販売員としてだった。もちろん荻野のお菓子を大事にする気持ちが滲み出ているのも素敵。  という素敵の笑顔に、柚希はちょっとときめいても『仕事中だから』と胸の奥に押し込めた。  どうせ。あと一年もしないうちに、店長は異動するのだろう。このビルの上階に。千歳お嬢様の補佐として、企画室か、また修行のために荻野遥万社長の秘書室にひとまず置かれるかはわからないけれど。彼のこれからの行く先はそこのあたりと約束されている。  しばらくすると萌子が『準備できたから行ってくるね~』と、ショップバッグに入れたギフトボックスを手にして、三階の企画室まででかけていった。  さて。どうなるかな。そう思っていたら、バックヤードの端にまた小柳店長がいることに気がつく。でも今度は長年勤務のベテランパートさんを連れてきていて、そのおば様と真剣な顔つきでなにかを話合っていた。  萌子のことかな……。ふと、そう思えてしまった。女性たちの統率も大変なんだろうな。でも大事にならないよう、あからさまにならないよう、いままで快適に働いてこられたのは、あのような水面下での小柳店長の采配のおかげなのかもしれない。  その日の夕方。もうすぐ遅番のスタッフにすべて引き継いであがりかなという時間になる。そのころになると、萌子はもう不機嫌そのものだった。その顔……、お客様に伝わってしまいそうで一緒に店頭に出ていた柚希はもうハラハラ。  企画室へ行くと、萌子のお望みどおりに千歳お嬢様と伊万里主任がノートパソコンを向き合わせ、ミーティングをしていたそうだ。
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