②伊万里君、逃げて!

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 柚希が予想したとおりなのか、千歳お嬢様は『あ、え、そうだったかな。あ~、忘れていた。そうだったわ、そうだったの。うん思い出した!』と変な反応をしたそうだ。 『自分で頼んでおいて忘れるってなんなのよ』と萌子は腹が立ったと言ったが、目の前には美形のお姉様によく似た弟の伊万里主任がいるので色めき立ったそう。 『でさ、千歳お嬢様が箱を受け取った隙に、目の前にいる伊万里さんに思い切って声をかけようとしたの』。萌子の作戦は《一度、スマート農業の畑を見せてください》――と狙いを定めて出向いたのだそう。それを言おうとした途端、伊万里主任の携帯電話が鳴って彼がそれを片手に離れた部屋の角に行ってしまったので、話しかけられなかったとか。  いつまでもそこにいるので千歳お嬢様に『戻って良いわよ』と満面の笑みで言われ、そばにいた細野係長に追い出されたのだそうだ。 「なにあのタイミング。私、運がない~」  その時、電話がかかってこなかったら、どうなっていたのかと柚希は怖い。しかも『お嬢様の教育係』として常にそばにいる細野さんの目の前でそんなことをした日には『お嬢様とお坊ちゃんによくない社員』と目を付けられていたに決まってるじゃないのと――。まずはそこに恐れをいだくのが一般的なのでは! と、言いたい。  むしろその電話に感謝すべき。その電話がなければ萌子は一発アウトを食らっていたはずなのだ。  うわ、これは危ないな。どうしよう。  小柳店長はもうベテランパートのリーダーさんに根回しを始めているし、千歳お嬢様も『頼んでいないギフトを小柳君が送りつけてきた』ことで『なにかあるな』と察しただろうし。
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