③荻野はやめとけ

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 若い柚希に萌子にしたら『そんな馬鹿な』と笑えた話なのだが、荻野に長く勤めているおば様から『でも、このまえ。浦和水産の親族だと店頭に来て小柳店長の対応を押し切った変な母子がいたでしょう。お母さんのほう、あのあと不幸が続いていまは意識がおかしくなって施設にいるらしいよ』なんて、恐ろしい話を聞かされた。  柚希もその『変な親族』が店頭に来た日にシフトに入っていたので、目撃している。あの小柳店長の丁寧な阻止も突破して、バックヤードに入られてしまったからスタッフ一同でギョッとしたことがある。  そういえばあの時も、伊万里主任がやってきて、バックヤードでかーるくいなして帰していたよなと思い出す。  へんにギラギラと着飾った小太りの母子だったが、その後、娘が薄汚れた姿でまた訪ねてきたらしい。その時、柚希は休日でいなかったので見ていない。だがパートのおば様たちが『小柳店長がこれはダメだと店頭対応なし、一発で上層部に報告するほどの異臭だったもんね。あれ、お母さんがそばにいなくなって、ひとりの力で生きていけなくなった子供の成れの果てだったよね』と噂していたのは耳にした。  小柳店長からスタッフへの報告と周知は『浦和水産の遠い親戚が荻野を強引に頼ってきたようだったが、荻野家側で対応済みです。これ以上の口外を禁止とします』との箝口令が出されたばかりだった。  あの親族の成れの果てが、荻野のご加護が跳ね返ったからだとおば様たちは言いたいらしい。  だが、あんな非常識な親族だから、自業自得な出来事でもあったんじゃないか、偶然――と柚希は思う。
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