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でも……、もしそれがほんとうだったら? 荻野に向けて非常識なことをした者の成れの果て。柚希はまたぞっとする。
もう萌子に諦めて欲しい。
「ねえ、萌子。もうやめようよ。荻野は不思議な一族とよく聞くじゃない。萌子になにかあったら取り返し付かなくなるから、やっぱり自分が勤める会社の上層部に迷惑をかけるようなことはやめようよ」
「迷惑? なんで。ただ好意を寄せているだけじゃん」
好意? 伊万里主任を心から好きで恋い焦がれているわけではないのに好意? むしろ迷惑な『行為』だと萌子にはどうしても理解されない。
「千歳お嬢様だってお見合いで結婚相手を決めたんだよ。きっと伊万里主任も親御さんが決めた女性とお見合いをすることになって、そこで結婚相手を決めるようになっているんだよ」
「好きでもない相手と? 家のための結婚を? 相続する千歳さんが見合いだったのはわかるけど。伊万里さんは相続しないなら自由なんでしょう。相続だって後々のことだから、結婚すれば、姉か弟かはまだ決定事項じゃないよね」
だから? 伊万里主任は自分と向き合えば絶対に好きになってくれるから、愛しあって結婚ができるといいたいのか? 確かに萌子は同期入社女子の中でも、お洒落さんでいつも可愛くしている。男性と飲み会に行けば、彼らはまず萌子を気に入るほどだ。だから向き合えば好きになってくれるもわかる。けれど――。荻野だけはもうやめたほうがいい。それが柚希の直感だった。
もう待ったなし。同期のリーダー的存在だった『村雨女史』に連絡しよう。柚希はそう決意した。
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