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寺嶋さんは、パートさんでも長年勤務のために、フロアリーダーも任されている。このようなことが起きた時の報告系統に連絡するための権限も持っている。
「これで大丈夫」
ひとまず販売部を統括している部署がスタッフ配置の調整をしてくれるはずと、寺嶋リーダーもホッとした顔をした。そこに柚希がいることにも気がついた。
「あ、それ。はやく店頭に並べてね」
「は、はい」
「いまの小柳君のこと、あんまり言わないでね」
「もちろんです」
おそらく萌子と仲良くしているから、柚希の口から出ることにも警戒しているのだろう。もちろん『マザコン』ぽかったなんて口が裂けても言えない。
突然、小柳店長が早退したため、店頭スタッフには『何事か』という動揺が広がった。柚希が言わなくても、いつも責任感が強い店長がなんの用事で急な早退をしたかは、やはり口をつぐんでいたって不審に思われるものなのだ。
しかも、15時ごろになって、店頭に思わぬ人が『店長代理』で現れた。
「小柳店長の代打でーす。店頭はひさしぶりですけれど、よろしくお願いいたします」
なんと。千歳お嬢様が、我ら店頭販売員とおなじ制服を着込んで、本店フロアに現れたのだ。
ピンク色のチェックベストに白いシャツ、黒のタイトスカートという制服姿に、真っ直ぐで長い黒髪をひとつにくくって販売員スタイルで登場。
みな、唖然とした。千歳お嬢様がそこらをうろうろしていたら、小柳店長がどうだったなんて下手な噂話もできやしない。
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