5105人が本棚に入れています
本棚に追加
/916ページ
④千歳お嬢様は見逃さない
JR線に乗り数駅、札幌市内だけれど玉ねぎ畑がひろがる住宅地に柚希の家がある。夏になると百合が咲く公園が近い。
ポプラの木が並ぶ道を辿って帰宅。家が暗く、父がまだ帰っていなかった。
母は柚希が大学生の時に他界。その時から家事を率先してやってきた。父も柚希のために、忙しく勤務時間が不規則な職種から転職をしてくれた。五歳年上の姉がいる。姉は職務上転勤が多くなかなか帰省できないが、柚希のことをよく気にして連絡はくれる。
父はいつも帰宅する前に必ずメッセージを送ってくれる。柚希のスマートフォンにはまだ着信はない。まだ仕事中のようだ。
父と柚希とそれぞれ担当して作った『作り置き惣菜』があるので、主菜と汁物を作っておく。簡単にできるように休暇に支度しているので、ひとりで食事をとった。あとは父が帰宅したら温めて食べられるようにしておく。
自室に入って柚希は意を決して、久しぶりに彼女に、メッセージではなく直接電話をしてみる。
『はい。ユズ? 久しぶりだね。どうしたの』
久しぶりの彼女の声にホッとする。同期生会を年末にしてから半年ぶりだった。
村雨花乃香。荻野製菓同期入社、研修の時に同じチームになった時のリーダーだ。
「久しぶり。メッセージで断りも入れないで、突然ごめんね。いま時間大丈夫?」
『大丈夫だよ。ユズが前振りもナシに電話をしてくれるってよっぽどでしょ。いつもゆったり構えて慎重なのに……。どうしたの』
柚希の性格からそこまで察してくれるリーダーでほんとうに有り難いし、やっぱり頼りがいがある。そこも見越して連絡したのだ。
「実は萌子が――」
最初のコメントを投稿しよう!