④千歳お嬢様は見逃さない

7/7
前へ
/916ページ
次へ
「言ったよ! そこまでやったらいけないんじゃないのって言ったよ」 「もっと強く言ってくれたら、私だってやめているよ! 柚希がはっきり言ってくれないからでしょ」  いいや、強く言ってもきっとやめなかった! そう言い返そうとしたら、ロッカールームのドアがバンと強く開けられた。 「はい。そこまでね」  千歳お嬢様だった。さすがに萌子の顔が真っ赤になった。いや、声を張り上げていた柚希も同様だ。  お嬢様の背には、先ほどの後輩ちゃんが隠れていた。彼女は思いきって、店長代理の千歳さんに『先輩たちが』と報告して連れてきてくれたようだった。 「同期はお願いを聞いてくれることが保証されたお友だちではありません。会社の同僚、一緒に働く同志です。後輩もおなじく。なおかつ、伊万里が結婚したいと連れてきたお相手は、前回、私のお祖母様にも父にも散々駄目だしをされて、荻野のお嫁さんと認められませんでした。『荻野と関係がない妻』としてなら結婚を認める。その場合は、伊万里に荻野を出て行けとまで言ったほど。彼女は荻野の嫁になれないなら意味がないと諦めたみたいですけどね。一度、試してみる? 伊万里が気に入らなくても、お祖母様が気に入ればお嫁さんになれますよ。どうかな」  ふたりそろって『え!?』と仰天した。伊万里主任、結婚したい女性がいたんだとか、その女性を連れて行ったのに、お祖母様に許されなかったんだとか、しかもその女性と結婚したいなら『荻野を出て行け』とまで言われたとか。 「伊万里と結婚したいなら、まずそこから。自信があるなら伊万里より、お祖母様が近道。会わせてあげるわよ」  千歳お嬢様が静かに萌子を見つめた。  萌子の返事は――。 「いいえ。結構です。申し訳ありませんでした……」  憑きものが取れたかのように、萌子は静かに千歳お嬢様に頭を下げた。
/916ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5115人が本棚に入れています
本棚に追加