⑤小樽で遭遇

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⑤小樽で遭遇

 小柳店長が早退してから四日目、やっと彼が店頭に戻って来た。 「ご心配おかけしました。また本日からよろしくお願いいたします」  いつもの温かみがある大人の落ち着きをみせる彼に戻っていた。  でも女の子たちの見る目が少し変わっていることに柚希は気がつく。  どんなに仕事が出来ても、男前でも、出世有望株でも。彼は母親に弱い男性だということ。ひとことでマザコンと表すことよりも、彼の生き方が母親を中心に回っていることは女子たちの身に染みたことだろう。  いままで狙い目一番、今後のハイスペック男子として目の前にいたのに、女は相手にマザコンという要素がつくと、どんなに稼ぎが良くても顔が良くても性格が良くても即却下するぐらいには、かなりの悪条件とみなす。  だけれど、小柳店長は特に気にしていない様子だった。まあ、たぶんマザコンな男性は、女性たちに嫌悪を持たれても、母親のことが気になるから関係がないのだろう。  そして、魂が抜けている女がひとり。千歳お嬢様にとどめを刺された萌子だ。 『お祖母様が近道、案内する』と千歳お嬢様自らお望みの道筋を用意してくれたのに、お祖母様と聞いただけで撤退を決めた萌子。もともと伊万里主任のことを『美形、セレブなハイスペック男子』ぐらいのことしか思っていなかったので、こんなに彼を愛しているのに荻野に認めてもらえないなんて哀しいという苦悩は微塵もない。  ただただ『私と向き合えば、恋してくれるはず』という自信を粉々にされ、『恋をしても愛しあっても、お祖母様が認めなければ、伊万里ごと荻野からバイバイ』という荻野側の条件にショックを受けてもぬけの殻状態なのだ。
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