⑤小樽で遭遇

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 今日の小樽の海辺には、蜃気楼が浮かんでいた。春から夏にかけて見られる日がある。  父が運転する車は小樽の高台にある住宅地へ。閑静で高級そうな家が建ち並ぶ地区に、大澤所長が兄家族と同居する家がある。  そこの玄関先で父が必要書類を届け、口頭での簡単な報告と雑談をして終わる。仕事の報告なので柚希は車で控えているのだが、父と大澤所長が笑顔になって車にいる柚希へと手招きをしてくれる。  柚希も喜んで、美麗で長身のおじ様へとご挨拶へ向かう。 「荻野製菓でのお仕事、頑張っているみたいだね。これ、僕が焼いたカヌレ。姪の一花といま凝っていて、しょっちゅう焼いているんだ。良かったら食べてね」 「おじ様、いつも、ありがとうございます。ほんとうにプロ並みで、いつも、ちゃっかり楽しみにしています」 「お菓子屋さんにお勤めのユズちゃんにそう言ってもらえると嬉しいよ」  いつもエプロンをしている所長さん。ずっと独身を貫いているようだけれど、大澤家の主夫業をメインにして、甥っ子姪っ子たちとの暮らしを第一としている。でも探偵の仕事になると勘がすごく働くらしい。 「今日はまた坂のカフェに行くんでしょう。シェフに伝えておいたから、レモンジェラートを作って待っていてくれると思うよ」 「ほんとですか。シェフのジェラート大好き。ある日とない日があるので、前もって準備してくださるなんて、とってもラッキー。優吾おじ様のおかげです!」 「うちの子供たちも、前代シェフの時からレモンジェラート好きだったからね。楽しんでおいで」
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