⑤小樽で遭遇

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 父のおかげで、素敵でちょっと不思議なおじ様から上等な手作りお菓子や手作り小物をいただいたり、人気のイタリアンカフェで『出会えたらラッキー』のメニューを前もって準備してもらえるご縁があるのも特別。柚希にとっては父について小樽に来ることは、とてもスペシャルな気分を味わえるおでかけになるのだ。  天気がよい日、坂の上のイタリアンカフェにある小さな駐車場に車を止めて白いお店へ向かう。  ドアを開けると一階はカウンター席のみ、テーブル席は二階にある。  シェフと奥様がいつもの笑顔で、カウンター内にある厨房から『いらっしゃいませ。待っていたよ』と親しげに迎え入れてくれる。  予約はしていなかったが、二階のテーブル席を取っておいてくれた。父と一緒に御礼を述べて向かう。  二階への階段は、カウンター席しかない一階の壁に沿ってあり、とても狭く急勾配。それでも二階に辿り着くと広いフロアで、大きなテーブル席がふたつと、四人がけのテーブルが三つある。  そのうちの二つは窓際にあって、そこからの景色は海と坂が見えて、小樽らしさを醸し出してくれる。今日はその窓から蜃気楼も見える。対岸の石狩新港にある工場タンクが縦長に伸びて、ゆらゆらと浮かんでいる。  そこで父と一緒に、景色を楽しみながらメニューをひろげ、休日のお喋りを楽しんだ。でも父はたまに物騒な話もする。 「あまり仕事のことは口外できないけれどな。やっぱり不倫調査がめちゃくちゃ増えたよ。ほんと、柚希も姉ちゃんの百花(ももか)も結婚したら旦那がそうならない男を選んでほしいよ」
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