⑤小樽で遭遇

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「未婚の子持ちでさ、」 「未婚の子持ち?」  どんな事情なのかと父から語られるのを待ち構えていると、あの急勾配の階段が騒がしくなる。 『お客様、大丈夫ですか。お手伝いいたしますよ』 『大丈夫です。慣れていますから』  背の高い男性が、小柄な女性を脇に抱えるようにして階段をゆっくりとあがってくる。 「母さん、大丈夫か」 「う、うん。ご、ごめんね。広海(ひろみ)」 「俺は大丈夫だから。ここ、来たかっただろう。気にしない」  白髪のボブカットの女性はとても歩きにくそうにしていて、その母親を息子さんが介助して二階まであがってきているようだった。  父がさっと立ち上がった。柚希も一緒に席を立ち、父の後に付いていく。  階段を見下ろしながら、父が声をかける。 「お手伝い、できることありますか」 「いえ、大丈夫です。もうあがりきりますから」 「だったら。下にある車椅子を運んできますね」 「よろしいのですか。もうしわけ……」  そこで母親を抱きかかえている男性と目が合った。  父の後ろにいる柚希もドキリと心臓がうごき、目を瞠る。 「小柳店長……」 「神楽さん」  父も、彼の母親も、ハッとしてお互いの娘と息子を交互に見た。 「え、柚希の職場の?」 「え、広海のお店の?」 「うん。いま本店で一緒の女の子」 「そう、いまいる本店の店長さん」  一瞬、シンとするが。ともかくと父が動き出す。階段を降りていく父が柚希に告げる。 「ユズ、すぐにお母様を座らせてあげなさい」 「はい」 「あ、そんな神楽さんのお父さん、」  遠慮する小柳店長に柚希は笑顔で伝える。 「あ、止めても無駄ですよ。父は元陸上自衛官でレンジャーだったので、放っておけないし、力仕事はお任せな人なので」
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