⑥レンジャー、レンジャー!

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 目の前にいる小柳店長がぽかんとした顔をしている。さらに柚希は恥ずかしくなって顔を覆いそうになった。  だが彼の母親はくすっと優しく笑ってくれる。 「まあ、かわいらしい。当時のお嬢様のお姿が見えるようですわね」 「えへへ。そうですか。私にとっては、いまも小さな女の子なんですけどねえ」 「わかります。私にとっても小さな男の子です。でも、いまは頼もしい息子で、頼りきりでちょっと申し訳なくて……」 「母さん、そんな話はしなくていいから」  小柳店長も母親に男の子扱いをされると気恥ずかしいようだった。  上司の彼もそうなんだと思ったら、柚希の肩の力も抜けてくる。 「お母様、是非。ここのテーブルがいちばん見晴らしがいいんですよ。店長もこちら側、お母様のお隣に座ってください」 「うん。そうだ、そうだ。せっかく来られて、今日は天気もいいし。もう一緒に食事しちゃいましょう」  小樽の海と坂と蜃気楼が見える席へと小柳母子を座らせ、その向かい側に神楽父娘が席を取った。 「ありがとう。神楽さん。まさかここで会えるだなんて」 「父の知り合いがこちらのシェフと懇意にされているんです。たまに来るんですよ。店長は今日が初めてですか」 「いや。以前、父がまだ存命の時に家族でよく来ていたんだ。いまは母がなかなかでかけられなくて。でも今日は久しぶりに行ってみたいと母が言うから来てみたんだ」  家族思い出の店ということらしい。  店長はお父様と死別ということらしい。それで、一人っ子の店長だから、母一人子一人ということがわかってきた。  息子が気後れしてその先を言いにくそうにしていたからなのか、お母様から教えてくれる。
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