⑥レンジャー、レンジャー!

3/8
前へ
/916ページ
次へ
「この子が荻野製菓に入社した年でした。私と夫で事故に遭いまして、夫はそのまま他界、私はこの身体になりました。以降、広海には世話ばかりさせて苦労させています。新人研修の時期で、息子も大変だった時に負担をかけました。ですが、たまたま荻野のお嬢様と同期入社だったとかで、千歳さんと同期のお友だちが、広海のことも私のことまで、それはもう感謝を言葉で言い尽くせないくらいに、助けてくださったんです」  そんなことが……。初めて聞く話だったので柚希は絶句する。でも、これで事情を知っている千歳お嬢様と長年勤続の寺嶋リーダーの反応も腑に落ちた。とにかく、お母様を手助けできて守るのは、息子の小柳店長しかいないから、なにをおいても『行け』という意味だったこと、『ないがしろにする相手はやめておけ』という意味もわかった。  と、いうことは。小柳店長は早い段階で萌子に、自分が置かれている状況を見てもらおうとしたのでは? 三回目のデートで、車椅子と義足の生活をしているお母様を見てもらおうとしていた? その後のドライブ同行も『結婚すれば、母親同行がどれだけ大変か』知ってもらうためだったのではと思えてきた。 「母さん、せっかく休暇の食事に楽しみにこられている神楽さんに、そんな話を聞かせなくても」 「あ……、ごめんなさい。でも、私のことで広海、このまえ、お店を急にお休みにさせちゃったから、皆様にご迷惑かけていると思って……」  やっぱり同じテーブルは気を遣わせたかもしれない。柚希は隣に座っている父をそっと見上げるが、父は再度メニューを開いて、テーブルのど真ん中に置いた。
/916ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5115人が本棚に入れています
本棚に追加