⑥レンジャー、レンジャー!

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 今日は白いポロシャツにデニムパンツというカジュアルなスタイルの小柳店長。半袖から伸びている腕は男らしく筋肉質で、いつもは長袖の制服で隠れているので柚希はどきっとしてしまう。黒いダイバーウォッチをしている手首も男らしくて、つい見とれてしまった。 「凄いお父さんだね」 「元レンジャーですけれど、冬季遊撃レンジャーの教官もしていたんです」 「え、真駒内でやっているニセコの雪山で訓練するレンジャーの、教官だったってこと?」 「はい。教え子いっぱいいるんですよ。お世話とか当たり前なんです。父には。でも、母が他界して未成年だった私の面倒をみるために、そこで自衛隊を退官して民間で働くようになったんです。いまは探偵さんです」 「探偵さん! これまた滅多にお目にかかれないご職業」 「そこには毎日お困りの方が訪れますから。いろいろ慣れているんです。 お世話が好きなので、させてあげてください」  車椅子に乗っている母親が、世話焼きおじさんと楽しそうに話している姿を、店長は遠い目で見つめている。でも、ほっとしたような笑みを浮かべている。 「あんな母さん、ひさしぶりだな……」  その目に涙が滲んでいるのを柚希は見てしまった。  見てはいけない気がして、柚希は店長の顔を見上げないように下を向いて歩いた。でも、そんな柚希もちょっともらい泣きしそうで、目頭が熱くなって困っている。
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