⑦せつない水色

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 水族館の駐車場に到着しても、父はすぐに小柳家の車へと出向く。車椅子のお母様を下車させるための介助へだった。柚希も向かうが、父と息子の店長で事足りてしまい出番ナシだった。  入館手続きを済ませて館内へ。入ってすぐのところに、サメの歯が展示されている。鋭い牙がずらっと並んでいる上顎と下顎をぱっくりと大きく輪っかのように開いた状態で置かれている。大人の男性がすっぽりとくぐれるほどの大きさだ。それだけ大きな口と鋭い歯があることがわかる標本だった。  またお茶目な父が、大きなサメの歯の輪っかをくぐって、その中心でポーズを取った。 「俺、食べられてもここらへんで鉄拳くらわして暴れる。負ける気しない」  牙に囲まれた輪っかの中でファイティングポーズを取った父が『ユズ、撮影してくれ』とか言い出す。柚希も呆れながらも『はいはい』とスマートフォンで写真を撮ってあげる。  また小柳店長はぽかんとしているし、車椅子のお母様は『うふふ。お父様なら勝っちゃいそう』とクスクスと楽しそうに笑っている。 「神楽さん。お父さんっていつもあんなかんじなの?」 「あ~、はい。あんなかんじです」  やっと小柳店長もおかしそうに『くす』と笑いをこぼした。 「次はヒロミ君の番だ。お母様に逞しい男の心構えを見せてあげなさい」 「え、俺、ですか」 「やめて、お父さん。店長はお父さんみたいに、ガッツ丸出し教官じゃなくて、ソフトでスマート系ビジネスマンなんだからっ」  うわ、なんでここで『店長はソフトでスマートなところが素敵なんだよ』みたいなこと言えちゃったんだ私……と、また柚希は恥ずかしくなってくる。
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