⑦せつない水色

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 父が遠慮なく、いつものお茶目全開で場の空気をリードしていくので頼もしいやら、油断ならぬわで、柚希の心のアップダウンも激しくあたふたさせられてばかり。  なのに柚希の隣にいる店長は『ガッツ丸出し教官』というワードがツボに入ったようで、必死に笑いを抑えているのを見てしまう。 「て、店長……」 「ご、ごめん。いや、ほら。そのまんまのお父さんで、目に浮かんじゃって……。うん、俺もちょっとやってみる」 「え! 店長、無理しなくていいんですよ。父がいうことなんて聞き流してください。いっつもあんな冗談を無意識に言っているだけなんですから」  止めたのに、小柳店長は父と入れ替わりで、サメの大きな顎骨の輪っかの中心に立った。 「母さん、撮って」 「うふふ、いいわよ~」  車椅子のお母様が、膝の上に置いていたバッグからスマートフォンを取り出して、始終クスクス笑いながら、大きな息子がポーズを構えた姿を撮影している。 「ふふ、小さい時を思い出しちゃったけど。でも、やっぱり……大人の男性になったのよね、広海は……」  撮影した画面を眺めて、お母様は楽しそうでもあって、どこか寂しそうにも柚希には見えてしまう。 「では。いろいろ見て回りましょうかね」  まただ。父が率先してセリナさんの車椅子を押し始める。  柚希も父が考えていることが少しわかってきた気がする。  車椅子を押す父に『自分が……』と追いかける店長だが、父はしらんぷり。さっさと行ってしまう。そのキビキビと迷いなく早足で行く姿は、とても慣れている。様々な訓練を乗り越えてきた男の動作なのだ。
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