⑦せつない水色

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「店長。今日はもう父に任せてください。きっと父は店長にも、店長のペースでくつろいで欲しいんですよ」 「いや、別に俺は、母と一緒でくつろいでなかったなんてことは」  ここだ。責任感が強いんだ、やっぱり。柚希はそう感じた。  だからこそ、この若さで荻野に認められて重要なポジションに望まれたことがわかる。母親のことも、自分のこと以上に、責任を持って介助をしてきたのだろう。ましてや、母親があの身体になったと同時に夫を亡くしたのだから、その心痛も息子としてなだめてきたはずなのだ。 「息子が楽しくしている姿って、母親としてとっても安心できるものだと思いますよ。今日はもう父に任せちゃいましょう」  なんて明るく言ってみたけれど、まだ戸惑っている様子の小柳店長には余計なお世話だったかなと柚希は一瞬で反省したくなった。  だが、既に父と一緒に水槽の中の小魚たちを楽しそうに見ている母セリナを見て、店長の表情もやわらかくなっていく。 「俺も、水族館なんて久しぶりだな」 「私はたまに父と来ちゃいます。というか、父が来たがりますね。日頃、様々な人の思いに触れているからかもしれません。水槽のお魚みていると無心になれますもんね」 「なるほど」  父とセリナお母さんはどんどん先に行ってしまうので、柚希はおのずと店長と一緒に水槽を眺めて、ゆっくりマイペースで歩いていた。  そのうちに、白髪のセリナお母さんが『ユズちゃん』と笑顔で呼んでくれる。
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