⑦せつない水色

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 カワウソの展示のところで、ハンモックですやすや眠っている姿を柚希と一緒に眺めたかったようだ。ここはきっと『男性より女の子気分』を共有したいのだろうなと思ったので、柚希も笑顔で駆け寄って、お母さんと一緒にかわいいかわいいと繰り返して楽しんだ。  お母さんの車椅子移動は、場所によっては父が担当したり、柚希が付き添ったり、そして息子と母親でイルカの水槽を一緒に眺めたりと、その時その時で話し相手も変わるので、店長のお母さんもずっと満面の笑みで楽しめているようだった。  イルカショーが始まる時間まで。小樽の海が遠くまで見渡せる外の休憩所で一休みをする。緑が息吹く崖の上に、赤い屋根の鰊御殿が見え、そこから向こうは小樽の夏の海が広がっている。  景色がよく見えるところに、父が車椅子をしっかりと固定して止めて、親同士で遠くを眺めてお喋りをしていた。  柚希は飲み物を買って、少し離れた場所にあるベンチで陽射しを凌いで座って休む。その隣には母親にお茶を手渡して戻って来た店長が座った。彼も冷えた水を買ってきて、柚希のそばで栓を開けて飲み干している。 「神楽さん、ありがとう。やっぱりそうかな。三人も人手があると俺も余裕ができるし、母も話し相手が変わったり、女の子と話せたせいか凄く楽しそうだ。うちの母、ずっと乙女チックな人で、広海の妹として娘も欲しかったとよく言っていたんだよな。女の子の神楽さんと話せて、嬉しかったんだと思う」  すっかり『ユズちゃん、ユズちゃん』とかわいらしい笑顔で呼ばれるので、店長が言うことも本当なのだろうと柚希も感じていた。
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