⑦せつない水色

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 持っている小物も、着ている服もバッグも、女性らしいというよりは、女の子といいたくなる『可憐』なものが多かった。なのに、ぜんぜん違和感がなくて、ほんとうに良い意味でお嬢様のまま奥様になった人だと思えるほど。 「あんなにはしゃいで、母、帰りは車の中で寝ちゃうかもな。ほんとうに、あんな母はひさしぶりだよ」 「父のおせっかいでしたけれど、そうであれば良かったです」 「知らなかったんだけれど。神楽さんもお母さんとは死別しているんだね。うちは母子家庭になったけれど、それでも俺が成人してから。神楽さんは成人前だったんだってね」 「それでも大学生にはなっていたので、父の手があればなんとかなりましたよ。姉はその時はもう入隊していたのでいなかったけれど、生活面も進学に関しても、同性の大人として精神面的にも、金銭的にも、ほんとうに充分なバックアップをしてくれました」 「そっか……。俺は、荻野が、千歳がね、ほんとうに良くしてくれたんだ」  千歳お嬢様がどれだけ協力してくれたのか。聞かなくてもよくわかる。それ荻野に勤めていると、どれだけ従業員を思いやるように育てられた跡取り娘か、自然と伝わってくるからだ。 「母に合う良い義足も、千歳がお祖母様に相談して、いい事業所と技師を紹介してくれたんだ。千草お祖母様も、たまに気にしてくれてね。だから俺、荻野のためにこれからも働いて、千歳の助けになるようにしていこうと思っている」  彼が荻野という会社に愛着を持って入社したのは変わりはないのだろうが、それ以上に、父親を亡くし同時に母親が障害を負った時に、手を差し伸べてくれた千歳お嬢様と荻野のお祖母様に『恩義』を強く持っていることを柚希は知る。
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