⑧悲劇のヒロイン

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⑧悲劇のヒロイン

 小樽の海がせつない、なんて初めてだった。  あの胸をしめつけたものはなんだったのだろう。  それでも、小柳店長と芹菜(せりな)お母様と『たのしかったですね』と、小樽水族館の駐車場で別れた。途中まで一緒の道を辿っていたが、札幌に帰る札樽(さっそん)自動車道の高速に入ると走行するスピードが異なり、別れてしまった。  翌日。おなじ休暇日に、親子ででかけた先でまさかの遭遇をしたふたりが、職場で再会する。 「おはようございます。神楽さん」 「お、おはようございます……。店長……」  本社ビル一階にあるスタッフルームエリアのロッカールームで制服に着替え、バックヤードから店舗へ。事務デスクで既に作業をしている店長と挨拶を交わした。  その時、店長があたりを見渡し誰もいないことを知ると、『昨日はありがとう。母はずっと神楽さんのことばかり話しているよ』と教えてくれた。  でも、そのあとすぐに萌子がバックヤードに現れたので、二人揃ってさっと合わせていた目線を外す。店長はデスクにあるパソコン画面へ視線を戻し、柚希は店舗の開店準備へと向かった。  最近は柚希と萌子はおなじシフトにならないようにされていた。  休憩時間も同じにならない。完全に離されていた。  伊万里主任と結婚したい作戦失敗以降、萌子は大人しくはしている。店長はもう論外で、伊万里主任を狙っても願うような結婚はできそうにもないと諦めたようだった。  今日は久しぶりにおなじシフトに。萌子が大人しくなったので、管理側も柚希と被ってももう問題はないと判断をしたのかもしれない。 「おはよう。一緒になるの久しぶりだね」 「そ、そうだね」
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