⑧悲劇のヒロイン

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「嫌だよ。一人で行っておいで。いまなら、バックヤードに店長ひとりだよ。あと十分もすれば寺嶋リーダーが出勤する時間だよ」  迷っていた萌子だったが、今回は柚希に突き放されても腹を決められたのか、ほんとうにバックヤードへと向かってしまった。  柚希はなぜかハラハラしている。いまさらだと思うけれど、小柳店長は優しいから、一度切れた状態からもう一度仕切り直しをする猶予を与えてしまうかもしれないから。  同時に、なんで自分もこんなに動揺しているのか。柚希の心も揺れに揺れていた。  どうなるんだろうと、心ここにあらずな状態で、でもしっかりとしなくちゃと開店準備を進める。  しばらくすると、小柳店長がバックヤードから店舗で準備をしている柚希へと向かってきた。 「神楽さん、ちょっといいかな。バックヤードまで」 「はい……」  萌子が戻ってこいないことにも気がついた。まさか――。  バックヤードに連れていかれたが、徐々にロッカールームからバックヤードを通って店舗入りする他スタッフがちらほら現れたので、店長は人目に付かない保管庫へ向かう通路へと柚希を連れて行く。  うす暗いその通路で、店長と向き合った。 「太田さんなんだけれど。急に変なことを言い出して。さきほどまで二人で一緒にいたよね。少し前に、俺が太田さんとプライベートで会っていたこと知っているよね」 「はい。彼女から聞いていました。でもお母様のことは知らなかったようなので。もちろん昨日のことも彼女には伝えていませんから」
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