⑧悲劇のヒロイン

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「それはわかっている。なぜなら、彼女が『なぜ、ふたりだけのデートなのに母親を同伴させようとしたのか、その訳を聞かずに離れていった自分も悪かったけれど、いまその訳を教えて欲しい』と聞いてきたから。神楽さんからは聞かなかったことはわかっているよ。それで……」  萌子。ちゃんと自分ひとりで言えて聞けたんだ、今回は本気だったかと柚希はすこし驚いた。だが彼女がやっと向き合ったのに、店長の返答は彼女が望むものではなかったようだ。 「母のことは、同じ勤め先の者には慎重に伝えたいと思って、いままで表でおおっぴらにはしなかったんだ。それに言うより、現実を見てもらったほうがいい。それも勿体ぶらずに早い段階で。女性と将来を見据えた付き合いをするなら、そうすると決めていたんだ。だから彼女にもその目で見てもらうまでははっきり言わなかったんだ。正直、この判断は正解だと思っていたよ。母を連れてくるのひとことだけで疎遠になる女性だったとわかったからね。訳も尋ねてくれないほどのことなら、そこまでの関係だ。こちらとしては、わだかまりもなかった」  店長としてごもっともな判断だと柚希は思うし、ご家庭の事情もご自分の立場を考慮した行動だということも理解できる。  それで萌子に今回はどう説明したのか柚希は気になる。
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