⑨千歳ちゃんのお告げ

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 見覚えのある男性。栗毛だからとても目を引いた。明るい紺色のスーツを爽やかに着こなしていて、バックヤードに入ってきただけでそこがぱっと明るくなった。 「いらっしゃいませ。浦和様。店舗にご来店は珍しいですね」 「こんにちは。小柳店長。お客様ではないから、朋重でいいですよ。荻野姓になると名前で呼び分けられるのでしょう。いまからでもそれでかまいませんから」  浦和朋重。千歳お嬢様の婚約者だった。最近、彼が本社ビルに仕事でもプライベートでも出入りするようになって、また人目を引く存在になっていた。栗毛のクォーターで、若き副社長。もうすぐ千歳お嬢様と結婚をして、荻野姓になって婿入りをするのだ。  その彼がビル玄関からでなく、店頭から入ってきたのは珍しい。 「もう千歳ちゃんは企画室にもどっちゃったんだよね。制服姿で店頭販売している姿を見たかったな」 「そうですね。半月ほど前になりますけれど、私の代わりにフロアを管理してくれ助かりました」 「そっか~。忙しくてこられなかったんだけど、制服姿の千歳ちゃんを見たかったな」 「確かに彼女が制服を着て店頭に立つのは滅多にありませんからね」 「お客さんになって接客してもらいたいなあなんて。冗談を言い合っていたんだけれどね。残念」  キラキラしたクォーターの彼が現れると、ほんとうにその場の空気が華やぐ。これほどのお見合い相手ならば、千歳お嬢様にぴったり。誰も太刀打ちができない。  それでも、黒髪の穏やか和風メンズの店長だって負けていないと、柚希は言いたい。断然、和風メンズを推しますよ。 「今日は店舗からどうされたのですか」
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