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浦和副社長がスーツの胸ポケットから、社員証とおなじIDカードを取り出して、小柳店長に提示した。浦和副社長は荻野に婿入りをする婚約者として、既に荻野本社に出入り可能の手続きが済んでいる。千歳お嬢様と仕事面でも連携することがあるので、来客用になるところを、社長室預かりの社員同様、家族証のような形でIDカード持ちになっている。
「これ、まだ『浦和朋重』のままなんだよね。はやく『荻野朋重』に変更してほしいなあ」
「それももうすぐですよ。こちらから入ることができますからどうぞ。千歳さんと伊万里君に会いに来られたのでしょう」
「そう。ちょうど昼時だから一緒にランチでもしようと思って、そこの回転寿司でテイクアウトしてきたんだ」
浦和副社長が片手で掲げたのは、寿司テイクアウトでもかなり大きな寿司桶ケースだった。なぜか小柳店長が『なるほど』と苦笑いを見せたので、柚希は首を傾げる。
「50貫ケースひとつじゃ足りなさそうだから、二段で50貫ケース二つ買ってきた。足りるかな?」
ランチなのに!? どんだけなのそれ! いったい誰と誰と誰で何人でランチをするつもりなのかと柚希はひそかにギョッとしていた。でも小柳店長はなんだかわかっている様子だった。
「あ~、どうでしょう。際限なさそうだから。と、とにかく。こちらへどうぞ。伊万里君を呼びますね」
「では、お邪魔します」
店長自らの案内で、朋重さんがうきうきした様子でバックヤードから去って行く。
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