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その後すぐだった。寺嶋リーダーが険しい表情で、萌子を伴ってバックヤードに入ってきた。
「太田さん。自分がなにをしたかわかっていないよね」
「いえ、その。深い意味はなくて、軽い気持ちだっただけで本気では……」
「本気でも、本気でなくても、やっていけないこと、言ってはいけないことがあります!」
何事かと、柚希は目を丸くして眺めていることしかできなかった。
萌子が店頭でやってはいけないことをしたことだけがわかる。
そこへ浦和副社長の案内を終えた小柳店長が戻ってきた。
怒り心頭である寺嶋リーダーを見て、また向き合っているスタッフが萌子と知って顔色を変えた。
「寺嶋さん。どうかしたのですか」
「荻野室長に会いに来られた朋重さんに、話しかけようとしていたので止めました。そのまえに、『政略結婚だから、実は千歳お嬢様のことは好きではないはず。ほんとうの恋愛はちょっとした日常で出会うのが本物。だから話しかけたいな』と、田端さんとの会話が私にも聞こえてしまいました。いつもの無駄口ならまだ注意だけで収めますが、さすがに婚約が成立している男性に、しかも自分が勤めている会社ご令嬢のお相手に、故意があって接近する行為が見逃せませんでした。しかも業務中の店頭でですから」
寺嶋リーダーの報告に、小柳店長は憮然としていた。
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