⑩ユズちゃんに会いたい

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⑩ユズちゃんに会いたい

 店頭に出ると、崩れた空気を必死に持ち直そうとしている他スタッフの様子をありありと肌で感じてしまった。  後輩ちゃんの田端綾音(あやね)と、午後の中休みを一緒に取ることになり、ロッカールーム近くの休憩室で事の次第を教えてもらう。  きらきらした空気を振りまいて店頭に現れた浦和副社長をひと目みると、やっぱり萌子は目をハート型にして浮き足だったのだとか。 『はあ~。近くで見ると、やっぱり素敵! 政略結婚なんだよね、お見合いだよね。ほんとうは好きじゃないかもしれないよね~。これから頻繁に荻野に出入りするんだよね。ちょっと話しかけたいな。そうしたらさ、私にだって……』  その後も、寺嶋リーダーが怒っていた時に言っていたように、『ほんとうの恋愛はちょっとした日常で出会うのが本物』と呟きながら、浦和副社長にご挨拶してくるという名目で近づこうとしたのだとか。  もうその様子が手に取るようにわかるよと、柚希は額を抱えて項垂れたくなる。  その行動を密かに監視していた寺嶋リーダーに見られ、捕獲されたとのことだった。  朝、他の男性に復縁要請をして、条件に合わないと泣いて諦めたことが彼女としては『終わったから次!』とケジメを付けたことになっていたのか?  浦和副社長はまだ独身だけれど、もう独身ではない。両家で顔合わせ済み、結納済みで、千歳お嬢様の夫同然の立場を持っている男性になったのだ。しかも荻野のお祖母様お墨付きの男性だ。ちょっかいをだして大変なことになるという先が想像できなかったのか。
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