⑩ユズちゃんに会いたい

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 目先の『かっこいい、セレブ』という条件しか目に見えないのか。小柳店長のように、その人その人の家庭で事情があって、またはその男性を想う家族がいる。その背後にある『家』に向き合うと、途端に逃げてしまう萌子。ずっと悲劇のヒロインが繰り返されるのが目に見えるようだ。  そのうちに、自分が気に入れば、既婚者でもいいとか言い出しそうだと初めて思った。  後輩の綾音ちゃんも、呆れていた。 「浦和副社長を見た途端に、もう顔にも仕草にも出ていたので早めに釘を刺しにいかれたのかと。弟さんであの状態だったので、跡取りお嬢様の婚約者にまで自分にはチャンスがあるって声、聞こえちゃっていましたよ。ちょうどお客様いなかったから良かったけれどって寺嶋さん怒ってましたから」 「そうか……。私も力及ばず……」 「神楽さんが注意をして直るなら、もうそこで直っていますよ。そんな同期の言葉も届かないのだから仕方がなかったと思います」 「同期の私がそばにいるから、学生気分にさせちゃったのかなとも思っていたんだよね」 「そこはご本人の意識の持ち方ですし、神楽さんは一線引こうとしていたから大丈夫ですよ」  後輩ちゃん。すごく大人に感じる。いや、二十代後半ってもう誰だってこれぐらいの意識は備わっているものなんだよね? なんだか、久しぶりに凄く安心できる会話が出来て、柚希もホッとする。  昨日の休暇は突然、店長親子と遭遇して思わぬドライブになったかと思ったら、翌日の勤務は大波乱。  その中で、密かに芽生えてしまった気持ちも知ることになり、夕方の早上がりの時間にはヘトヘトになっていた。
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