⑩ユズちゃんに会いたい

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 萌子も今日はおなじ時間上がりだったが、そのまま寺嶋リーダーに面談のために連れて行かれたようだった。なので帰り支度をするロッカールームで会うことはなかった。  その後も、管理側でまた調整が入ったようで、柚希と萌子がシフトで被ることはほとんどなく、どうしても早番、遅番で時間が重なる時は、どちらかが店頭かバックヤード業務という形で切り分けられた。  萌子は近いうちに異動になるのではという噂も流れている。  この出来事から十日ほど経ったころだった。  北国はすっかり夏の季節になって、夕の西日が強く蒸し暑い日が続いていた。  早番だった柚希が着替えて本社ビルの従業員出口へ向かっていると、クールビズスタイルの小柳店長と出会った。 「お疲れ様」 「お疲れ様です。店長も早番だったんですね」 「うん。一週間に一度は早番の残務もほどほどにして帰ることにしているんだ」  自宅でひとり留守番をしている芹菜お母さんのために決めていることなんだとすぐにわかった。 「お父さん、元気かな」 「もちろん元気ですよ。昨日も腕立て伏せしていましたから」  店長が楽しそうに笑ってくれたが、それでも眼差しを伏せてひと言。 「でも。たぶん、お父さんにも色々あったと思うんだ。あんなに明るくて楽しくしているのはユズちゃんのためであって、またそれも本当に心から楽しんでいられる時間なんだと思う。ユズちゃんが癒やしなんだろうね」  父の立場でたとえて『ユズ』ちゃんと発言したとわかっても、素敵店長から言われるとドキッとしてしまった。
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