⑩ユズちゃんに会いたい

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「よかったら、また母に会ってほしいんだけれど」 「それは、かまいませんよ。あ、百合の公園、いま咲き始めでたくさんの種類の百合がいっぱいなんです。今度、同じ日の休日に行ってみますか」 「ほんとうに。ありがとう。母が喜ぶよ。花も大好きだから」  自宅の近所なので、公園で集合するか或いは店長が迎えに来てくれるかという話にまでなってしまった。  いいのかな、いいのかな……。このまま、プライベートで会うようになっていいのかな。店長、自分が管理する店舗の女性といざこざあったばかりなのに。しかも……萌子が狙っていた男性なのに……。彼女と店長が決別した後に、同期の自分が間を置かずに仲良くなったりしていいのかな。そんな戸惑いもある。  それに……。千歳お嬢様への密やかな思いが心に残っているのなら……。  柚希はそっと目を瞑る。そう、ただの同僚で、配下の女の子。それだけのこと、それだけの女の子と親睦があるだけのことだ。芹菜お母さんと楽しい時間を過ごすことだけを考えることにした。  父のおかげでもう連絡先交換も済んでいたので、『詳しい相談はそちらで』ということになった。  そんな仕事上がりの会話をしながら、本社ビルの従業員用裏口玄関から車道がある通りに出ると、そこに車椅子の女性が待機していた。  白髪のその人を見て、店長も柚希もそろってギョッとした。 「か、母さん!?」 「芹菜さん! どうされたんですか」  車椅子の彼女が、息子も柚希も一緒にいるので、とても嬉しそうに笑顔をみせた。
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