⑩ユズちゃんに会いたい

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「ユズちゃん。会いたかった。でも、まさか広海と一緒に出てくるなんて」  だが店長はそんな母親に食ってかかった。 「まさか。一人で来たのかよ!?」 「うん……。頑張ってみた。時間、かかったけれど、頑張ってみたの」 「また、事故に遭いそうになったらどうするつもりだったんだよ」 「だから、この前のようにならないよう、慎重に、時間をかけて、少しずつ。でも困ったことはそばにいる人に頑張って声をかけて手伝ってもらってきたの」  店長が絶句して佇んだままになった。だがその表情がなんともいえず、いまにも泣き崩れそうになっていて柚希は慌てる。  ここで息子の弱い姿になったところを、ほかの従業員に見られたくなくて、柚希からすぐに車椅子の後ろにまわった。 「すごい、芹菜さん。ひとりでここまで、疲れましたでしょう。ちょっと行った先に、すごく落ち着いた雰囲気のカフェがあるんです。そこに行ってみましょう」 「ほんとうに。ユズちゃんと一緒なんて嬉しい。ちょっとお腹すいちゃっていたの」 「行きましょう、行きましょう! 店長も行きますよね、もちろん!」  素早い柚希の行動に、店長も我に返ると、また呆然としている。 「あれ。小柳兄さんじゃん」  従業員玄関の門先でもたついていると、おなじくクールビズスタイルの伊万里主任が立っていた。  さらに、彼を追うように現れた女性がひとり。黒髪をなびかせる千歳お嬢様だった。 「あれ、小柳君。今日はノー残務の日?」  姉弟で退勤するところだったようだ。その千歳お嬢様も、小柳店長の様子がいつもと異なることにすぐに気がつき、戸惑う彼の視線の先を知り、驚きの表情に変わっていく。 「お母様!」
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