⑪柚の芽生え

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「本日は大丈夫でございます。人手もありますし、売り上げ的にも御礼申し上げます」 「よっっしゃあ」  伊万里主任がガッツポーズをしたので、柚希はますます訳がわからない。  伊万里主任がひとつひとつメニューを伝えていないのに、マスターは『伊万里的フルコース』を唱え始めた。 「ご確認いたします。すべておひとつにて。ナポリタン、ミートソース、焼きうどん、クラブハウスサンドイッチ、たまごホットサンド、フィッシュバーガー、ピザ・マルゲリータ……」  え、なにこれ。どこまで続くの!? 柚希が仰天して固まっていると、隣の小柳店長が笑いながら教えてくれる。 「この姉弟、フードファイター並の大食い姉弟なんだよ」 「ええ!? あ、朋重さんの、お寿司50貫×2、あれってもしかして」 「そうそう。あれ、実は姉弟二人分だったんだよ」  うそー!? お二人ともすっごくスタイルがいいのに、あのランチタイムに寿司100貫!? 久しぶりに目玉が遠くまで飛び出て拾いに行こうかと思える驚きだった。  しかも『伊万里的フルコース』、お店のスナックメニューをほぼ網羅しているんですけれど?? 「いいなあ、なんか私も食べたくなってきちゃったなあ」 「かっこつけないで姉ちゃんも食えよ。んで、支払いよろしく」 「それなら、やめる。自分で払いなさいよ」 「えええ~。お姉様が一緒だからフルコースしちゃったのにぃ。室長さん、俺より稼ぎいいじゃん~」 「半分わけてくれたら払ってやる」 「えーー! 半分も!?」  小柳店長が『相変わらずだなあ』と笑っている。芹菜お母さんも『久しぶりに見るわ』とご存じの様子だった。
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