⑪柚の芽生え

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「うん。どちらかというとお兄様の樹さんとよく会うかな。大澤倉庫の社長さん。お兄様の会社は港湾運送事業の他に、飲食店業をされているでしょう。観光客向けの食品事業をしている会社の会合でよくお見かけするの。お祖母様は、樹さんが若いときから顔見知りみたいなんだけど、最近は父の遥万(はるま)と樹さんが取引の相談をすることもあるのよね。私も父に同行して勉強させてもらっているから、大澤社長とはよく会うの。それから、いろいろ困った時は、優吾さんの探偵事務所にお世話になってる。細野さんがよく使っているの。つまり荻野秘書室の御用達事務所なのよ」  なんか巡り巡って繋がっていて柚希は驚くしかない。  ということは。父は荻野製菓からの依頼を受けたりしたこともあるのかもしれないと、初めて思ったりした。でもそこは探偵の守秘義務があって、口にも顔にも出せないのだろう。 「あそこの探偵さんたち、すごく優秀。優吾さんが強い伝手ももっているしね。荻野の秘書室と探偵事務所も密接して、すごくお世話になっている。いずれ小柳君もそこに……。あ、これはまだ内緒か。そうなのねえ。ふうん、なるほど!」  千歳お嬢様がかひとりで『やっと繋がった』とばかりに、一人でうんうん頷いている。  そのまま目の前に並んで座っている柚希と小柳店長を交互に見ている。そのうちに小柳店長を見つめて、にやにやした笑みを見せる。お嬢様がなにかを企んだような笑みだ。 「お母様。私、最近、石狩の漁村でおいしい漁師飯をご馳走してくださる方と知り合いになったんですよ。婚約者の知り合いなんですけれど。海を眺めたり、タコ飯を食べたりのドライブ一緒に行きませんか」
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