⑪柚の芽生え

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 芹菜母の笑顔が輝いたが……。息子が勤務する会社のご令嬢なので、勝手に返事はできないと思ったのか、息子の広海をちらっと窺う目線を向けている。 「なんだよ急に。唐突だな」 「ユズちゃんが一緒なら、お母様も小柳君もでかけやすくなるんじゃないの」 「なに言ってるんだよ。神楽さんだっていろいろ予定があるだろうし、千歳がお嬢さんの立場で行こうと言えば、従業員の神楽さんは断れないだろう」 「神楽さんはどう? タコ天とかタコ飯とか、甘エビ丼とか出してくれるの」  漁師飯って。おいしそう!! 千歳お嬢様に誘われるだなんて畏れ多いが、でも、食いしん坊の血が騒ぎ出す。 「食べたいです! 店長とお母様がよろしければ、一緒に行きたいです!」 「はい。決まり。小柳君、行くよね。私も朋重さんを連れてくる」 「たまに、めちゃくちゃ強引だよな。なんなんだよ、もう」 「あら。私が強引な時は、言うことをきいたほうがいいよ。いままでもそうだったでしょう」  あの小柳店長が大人の落ち着きもどこへやら、千歳お嬢様に押されて『ぐぬぬ』と言い返せない状態に追い込まれていた。どうやら同期生同士で通じるものがあるようだが、『私が強引な時は言うことを聞くべき』なんて、お嬢様らしい発言だな――ぐらいにしか柚希は認識できなかった。 「朋重兄ちゃんも連れて行くのかよ。川端さんのところだろ。俺も行きたい」 「朋重さんにも伝えておくよ。うちは朋重さんの車で行くけれど、小柳君も車だせるよね」 「それはもちろん。うちは車椅子だから、うちの車のほうが」 「お母様、いかがですか。久しぶりにみんなでわいわいドライブしましょう」
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