⑪柚の芽生え

7/8
前へ
/916ページ
次へ
 そんな話の間に、伊万里的フルコースが次々とテーブルをいっぱいにしていく。  ほんとうにこれ、姉弟ふたりだけで食べられるの? いや本来は伊万里主任がひとりで食べようとしていたんだよね? と、もう柚希はただただ呆然――。  千歳お嬢様と小柳店長が交わす『懐かしい同期生のこれまで』の話も繰り広げられる。その懐かしい出来事の中にもちょいちょい、おふたりより二期下の伊万里主任も混ざっていたりして、お姉ちゃんの同期生にかわいがられていた弟君という図式も見えてきた。  なかでも柚希の心に残ったのが、突然、両親が事故に遭って、父は他界、母は障害を負って、右往左往している新卒生の小柳店長を、同期生が代わる代わるご自宅まで出向いてサポートしていたというエピソードだった。  これが芹菜母が小樽で語っていた『感謝を言葉では言い尽くせないほどに助けてくれた』という話だと知る。 「義足を付けて立てるようになったお母様が、時々お夕食をご馳走してくれたでしょう。お母様の『油淋鶏(ユーリンチー)』が本当に美味しくて。お聞きしたレシピ、いまも私の大事なレシピのままです。婚約者の彼も凄く美味しいと言ってくれました」 「千歳さんの婚約者さんが? あの時のまま大事に作ってくださっているだなんて、私も嬉しいわ。今度、その婚約者さんにもお会いできるのね。楽しみ」  柚希にも目に見えるようだった。千歳お嬢様だからこそ、同期をまとめて率先して、小柳親子を手助けしたことが。  だからこそ。小柳店長は千歳お嬢様に恩を返すために、補佐になろうと頑張ってきたのかもしれないとも思えてきた。
/916ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5114人が本棚に入れています
本棚に追加