⑫会いにいきます

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「勝手に使わせていただきます」  たったひとりのキッチンになっても、柚希はお辞儀をしてからシンクに向かった。  ちょっと低めのシンク。使いやすい。たぶん、芹菜お母さんに合わせて作ったキッチンだと小柄な柚希は気がつく。  だとしたら、長身の店長にはちょっと辛い設計かもしれないとも思えた。  勝手ながら。お粥も作っちゃいます。  ほんのり薄味の鶏肉中華粥を作りますよ。父ちゃん直伝です。  お米からコトコト。  冷やし中華の具材も切って、錦糸卵つくって……。  小一時間。  キッチンの引き戸が開いて、店長が目覚めたかなと振り返ったら、そこに白髪の女性がパジャマ姿で立っていた。 「ユ、ユズちゃん!?」 「あ、お邪魔しています。店長はいまお部屋で休んでいます。すみません……。押しかけてしまいまして……」  乙女なお母様だからパジャマ姿など見られなくないかなと思って、柚希はそっと視線を調理する手元に戻した。 「とってもいい匂いがしたものだから。広海がなにを作っているのかと思って。あなたも休みなさいよと伝えていたのに、頑張って作ってくれているのかと思っちゃって」 「ちゃんと休んでいますよ」 「そう……。良かった……」  母も息子も互いを思いやるばかりに、頑張りすぎたり、我慢したりしてきたことが窺えた。 「芹菜さんも、気にしないで休んでいてください。慌てずゆっくり治して、また一緒におでかけしましょう。百合がダメなら、ラベンダー、ひまわりにコスモスもありますからね」 「ユズちゃん……」  義足をつけているほうに身体を傾け、引き戸に寄りかかりながら、芹菜お母さんはハラハラと涙を流し始めた。 「なにか飲みますか。水分補給もこまめにしておきましょう」
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