⑫会いにいきます

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 芹菜母も頷くと、自分で歩き出して冷蔵庫へ向かう。  歩けるけれど、やはり線が細いかなという印象だった。元々そんなにアグレッシブな性格ではなくて、ほんとうに深窓のお嬢様で、お家でのんびり自分が好きな空間にいる習慣で暮らしてきたのだろう。  彼女自身でコップを手に取り、麦茶を一杯飲み干したのでホッとする。  ダイニングの椅子に座った芹菜母がやっと笑顔を見せて、柚希に尋ねる。 「いい匂い。ユズちゃんが作ってくれたの」 「はい。父直伝の中華粥です。鶏の胸肉で出汁を取って、薄味にします。風味はお酒と、ほんのちょっとのゴマ油です。いかがですか」 「おいしそう。それなら食べられそう」 「もうできますから、お部屋に持っていきますよ」 「ううん。ここでいただくわ」  では――と食器棚から器を準備していると、コップを片付けようと立ち上がった芹菜お母さんがよろめいた。クラッと目眩がしたかのように目元を手で覆って、なんとかテーブルに手をついて膝をつきそうになる。柚希は慌てて駆け寄り、その身体を支えた。  腕の中に倒れ込んできたその人の軽さ……。おなじ小柄な体型でも、凄く華奢だとわかった。 「か、母さん!?」  一時間ほど休んだ店長が、キッチンに戻ってくるなり驚きの声を上げた。  すぐに支えている柚希のところへと、店長も駆け寄ってくる。 「どうして部屋を出たんだよ。俺を呼んでくれと言っただろう。内線子機もスマホもあるんだから」 「いい匂いがしたから……あなたが料理しているのかと気になって……。そうしたらユズちゃんが……」
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