⑫会いにいきます

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「店長。お部屋に連れて行ってあげてください。芹菜さん、お粥、持っていきますね。無理して全部じゃなくて、食べられるだけにしましょう。残してもいいですからね」  まだ全快ではないよろめく身体で、彼女が息子の胸にしがみつくようにしてキッチンを出て行った。  柚希も引き続き、お粥をトレイに揃える準備をする。  店長は戻ってこないので、芹菜母の自室で付き添っているようだった。  準備が出来た柚希は、教えてもらった芹菜母の部屋へと向かう。  そこも木製の引き戸になっている部屋で、ノックをして知らせようとしたのだが……。 「広海が呼んでくれたの?」 「いいや。彼女から、手伝いたいと来てくれたんだよ」 「ユズちゃんから……。ほんとうに……?」 「うん」  芹菜母の涙ぐむ声が聞こえ、柚希はいったんノックをする手を止めて、間を持たせた。 「広海。いままで家にいれば充分、時々おでかけができればいいと思って、あんまりリハビリしてこなかったこと。ごめんね……」 「いいんだよ。頑張りすぎると、昔から母さんは熱が出て寝込むだろう。無理しても困るよ。この前も、どうして。俺に内緒で外に買い物に行こうとしたんだよ……。横断歩道を渡りきれずに、車椅子ごと横転して、走行してくる車にひかれそうになったと聞いた時は心臓が止まりそうになっただろ。頼むよ……二度と、二度と……、俺に、あの時のような哀しい気持ち、させないでくれよ……。あの時、母さんまでいなくなっていたら、俺ひとりになっていただろう」  小柳店長が急に早退した日のことだと柚希も思い返す。
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