⑫会いにいきます

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 あの日の哀しみと、母子が寄り添って涙する哀しみが、柚希の中でリンクしている。 「神楽さん?」  しっかりと男の顔に戻った小柳店長がキッチンに戻ってきた。  冷めてしまった粥を目の前に、涙をぼろぼろとこぼしている柚希を見て驚いている。 「え、どうかした……」  涙を拭いて柚希は答える。 「母を亡くした日を思い出して……。だから店長がお母さんをなくしたくないって……痛いほどわかって……。止まらなくて」  まだ落ちてくる涙を拭いていたら。  気がついたら、店長の胸の中で、ぎゅっと強く抱きしめられていた。  柚希の小さな黒髪の頭を、彼が大きな手で胸に強く抱き寄せている。  なんだろう。彼の胸の中に溶け込むようで、それは彼が傷めている心に柚希も溶け込むような不思議な感覚だった。  初めて思った。一人でたった一人で、この人もなんとか立とうとしていたのだって――。でも、もうひとりではないと思ってくれたのかもしれない。  ひとりじゃないって思ってほしいから、柚希も抱きかえしていた。
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