5115人が本棚に入れています
本棚に追加
足が速い、どんどんよっ君に追いついていく。
走っている寿々花より早く、駆けていくワンコも追い抜かしていった。
しかもよっ君の前まで抜けると立ち止まり振り返り、まっすぐ走ってくるだけの犬をさっと軽々と捕まえたのだ。
寿々花は茫然として立ち止まってしまったが、我に返って急いで男性の元へと走り出す。
「あ、ありがとうございます!!」
顔を上げた男性がにっこりと笑う。
鼻筋がすっと通った面持ちの男前スマイルだったので、寿々花は一瞬どきりとときめいたほど。頬がすこし熱くなる。
「すばしっこかったですね。後ろを走っていたんですけれど、急に飼い主さんと距離があいたかと思ったら、ちいさいのに弾丸みたいにあっという間に遠ざかっていくので、自分もびっくり目を丸くしちゃいましたよ」
犬の扱いに慣れているのかと思ったが、両脇の下だけ抱きかかえられているよっ君がジタバタするので、困った様子の彼がぱっと地面に降ろした。また逃げられないように脇を持っているだけで、身をかがめて掴んでいる彼が『うわうわ、動かないでくれよ』と焦っている。
そのうちによっ君から、寿々花の足下まで走って戻って来た。
「よっ君、ごめん。っていうか、よっ君、思った以上に速くてびっくりした」
ちゃんとお尻からすくって、寿々花はよっ君を抱き上げる。
知らない人に触られたからなのか、よっ君はそのまま寿々花の両腕に収まって大人しくなった。
「ほんとうに、ありがとうございました。母から頼まれて散歩を代理でしていたのですが、ここで見失うことになっていたら……私……」
最初のコメントを投稿しよう!