⑭まっしろな百合の夏

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「ねえねえ、広海。あちらのほうへ見に行ってもいい? ゆっくり写真を撮ってSNSにあげたいの」 「ああ、いいよ。慌てないでくれよ」  最近はひとりで先に車椅子を操作して動くこと増えてきた。  しかも、柚希が教えた写真中心のSNSにはまっている。お洒落でセンスがいいお母さんにはぴったりの娯楽だったようで、自分で選んだ雑貨に、ハンドクラフト写真、散歩中のなにげない風景の切り取り、花や緑など様々なものをアップして記録代わりのようにして楽しんでいる。  そのため、今日も『綺麗な百合をたくさん撮影するの』とはりきっていたのだ。  百合がたくさん植え込まれているガーデンに来たところで、お母さんの撮影を見守る。  そばにあるベンチに、彼と一緒に並んで柚希も座った。  北海道も真夏。今日は真っ青な空に、夏らしいモコモコとした白い雲。芝生の広場で子供たちがかわいらしく遊んでいる声。園内を一周回る『リリートレイン』がゆっくりと走行している。丘珠空港も近いので、時々、着陸寸前の小型ジェット機が低空飛行で公園上空を横切っていく。その光景も、芹菜母が『凄い。こんな低く横切っていくの』とわくわくとした様子でスマートフォンを向けて撮影していた。 「……まだちょっとハラハラするな。頑張っても、はしゃいでも、疲れたら熱を出したりするからな」 「いちおう、一時間を目処に涼しいところに連れて行きましょうか。広海君も気をつけないと、また疲れちゃいますよ」  水筒から冷たい麦茶を紙コップに注いで手渡した。  彼も柚希の手からなんなく取って、飲み干してくれる。柚希も自分の分を飲んで、ひと息つく。
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